悩める野球少年の恋愛力学   利央.4










んあー、と伸びをする。

今日もいい天気で空が青い。


夕飯にはまだ早いし、テレビもツマラナイし、ゲームも全然集中出来なくて、ソファにゴロリと横になる。
ああ〜つまんねぇ・・・・・・宿題なんかスル気もおきないよー

 皆、焼けるだろうなー、こんなにいい天気だと。
部活に入ってないヤツラって一体毎日何してるんだろうか?今度クラスのヤツに聞いておこう。

 ソファの上で両手両足使って、手持ち無沙汰にクッションを放り投げたりしてみる。

 こうしてゴロゴロと家にいると、あえて考えないようにしている野球のこととか、夏大のこととか、和さんのこと、準さんのこと・・・・・・が勝手にアタマに浮かぶ。
いろんな後悔が胸に溢れてきてすごく苦しいんだけど、それをどうする事も出来ずにただイライラするんだ。
自分の感情に振り回され無いようにするのが精一杯で、何度か家族に八つ当たりして、さらに落ち込んだ。

 アレは完っ璧にフラれたと同義なんだから、もう止めよう、あきらめよう、と何度もこころに念じるんだけど、今のところ効果はまったくと言っていいほど!これっぽっちも!ナイ。

 それもフラレれた、なんていう生易しいレベルじゃないんだ・・・・・・・もう考えるのも苦しい。

 マジ涙が出る。

 そんなのアリかよーって思うけど、全部自分が悪いから、誰かに当たってもしょうがないんだ。
 

 こうやって日がな一日ぐるぐると考えて、答えなんかないのは十分に分かってるんだけど、このぐるぐるが止まらない。考えすぎて仕舞にはアタマが痛くなってきたりする。アホかおれ。

 これだったら、部に出て準さんを盗み見ながら監督に怒鳴られてる方がマシな気がしてくる。


 ただ毎日、この関係は修復不可能!ってのを準さんに態度で示され続けるのが、考えてる以上にしんどくて、なんで野球やってるのかもう全然わからなくなるくらい。
 ホンキで心臓が、ぎゅうっっとする。

 おれ心臓病で早死にしたりすんのかもね・・・・・・・どうでもいいけど、もう。
 
 


「走ってくるかー」

 ちょっと身体動かさないとマジなまる。
そんでボケっとしてるよりも身体動かしてる方が余計な事は考えないような気がする。



 気持ちが萎えないうちに2階へあがってテキトーに着替えると、スニーカーを履いてドアを開けた。

 ガチャリと開けたドアの先には、今まさにおれの家に入ろうと慎吾さんが門を開けたところだった。

「慎吾さん?!」
「よっ!」

「どうしたんスか?部は??」
「おまえに言われたくねーよ!」



 目の前まで歩いてきて笑いながらおれを小突く。

 この時間はまだ部で鬼監督の号令イッカ、レーニングに勤しんでいる時間だ。
 サボリなんて認められない。
そもそもあんたスタメンだろ?おれに構ってる暇なんて無いはずだ。


「おまえなー、センパイが心配して様子見にきたのに迷惑そーな顔すんなよ」
「そ、そんなんじゃないっスよ!・・・・・・・・・昨日のっスか?」

 苦笑ってカンジの表情で、全部顔に出ているらしいおれの感情を勝手に解釈する。
おれの質問には答えずに、周りを見回してから顎をしゃくる。


「出るところなんだろ?ならちょっと歩こうぜ。どこ行くの?」
「いいかげん身体ニプるから走ろうかと・・・」
「えらいなぁ〜、りおー!」

 おれの頭をぐしゃぐしゃする。
これ準さんがおれが嫌がるの承知でよくやるんだ・・・・・くせっ毛ですぐに跡が付くのが面白いらしい。
 いろんな事がぜーんぶ準さんにリンクする。


 もうヤダ。




「うっわ、おまえの髪ってやわらけぇな!高校球児のくせして!!」
「カンケーないっス・・・・・・もう高校球児でもないし」 


 困った顔された・・・・・・・・もう戻れないし。

慎吾さんにまで迷惑かけて、すみません。


「・・・・・とりあえずー、鍵閉めてきたら?家の人いないんだろ?」
「・・・・・・っス」


 




 おれ達はタラタラ歩きながらちょっと先の公園まで行った。

「おまえホンキで部辞めるつもりなの?」
「・・・・・・・」

 おれは結局一週間部をサボって、とうとう昨日、和さんに退部届けなるものを出した。
和さんと同じクラスの慎吾さんはそれを見て、わざわざ来てくれたんだと思う。
仲いいんだよね、慎吾さんと和さんって。


「ホンキで辞めたいヤツは走りに行くとかしないと思うぜ。意地張ってないで戻って来いよ」


すごい直球で来られて、あっと顔を上げたけど慎吾さんと目が合って、また下を向いた。
バカにしてるんじゃない感じのバカだな、って声音だ。
だって本当のことは言えないし、夏大会前のすごく貴重な時間を使って来てもらったのに、それを無駄にする事しか出来ないから心苦しい。


「準太とのケンカが原因で辞めるのか?」

「ちがっ!・・・・・・違います」


 そんな風に思われたくない。準さんにまで迷惑かかる。

 ・・・・・・いや、慎吾さんがそう言うって事と、タケさんの言ってたこと考えたら既に皆そう思ってるってことだ!
またおれは考え無しに準さん追い込んでたのか??


「準さんは関係ないっス!おれが勝手に辞めたいだけで、ホント、準さんには何にも関係ない」


 上手い言い訳が見つからない。
慎吾さんの顔みたけど、特に表情には何にも無くて、ますます焦る。

 そもそも島崎慎吾というセンパイは結構スルどくて、野球以外の事ではぼんやりと人のいい和さんとは又全然違うのだ。
そんで余計な事は言わないところが又コワイ。
 この人騙せたら上級者だよ、ホントに。


「でも他に原因考え付かないぞ。2人でケンカすんのはおまえらの勝手だからいいけど、おまえは何で野球部入ったんだよ?」
「何でって・・・・・・面白かったから・・・で・・・・・、でも今回のコトは準さん関係ないっスよ」
「準太と仲直りしたら、戻ってくんのか?部以外で接点あんのか?それともこのまま投げ出すのか?」

「だからぁ、準さんは関係ねーって言ってるんスよっっ!」

 もうまるでおれの言ってる事なんて信じてない。決め付けてるって言ってもいい。
・・・・・・・・・もっともホントは嘘言ってるんだからスルドイ慎吾さんはおれの嘘なんて見破ってるんだと思う。

 そんでとうとう追い込みに入ってきた!



「この前のおまえが相手した準太の投球の出来に責任感じてるんだろ?」

 うっわ、すっげー直球キター!!! ・・・・・・・もう何も言い返せない。
なんてコトないみたいに言わないでくださいよ。

「・・・・・・」
「ありゃ準太の責任だ。」
「ちがっ、あれはっ、準さんは悪くなんかないっ」
「バァーカ、投球に関しては投手の責任なんだよ。たとえおまえが何をやったとしてもな。安心しろ、和己とやってるときはフツーだから」

 
 ソレを聞いて少し安心したけど、おれが戻ったら意味ない気がするし・・・・・・やつぱりいないほうがいいのかな、とか。
こんなイジケタ事考えてる自分が嫌だ。


「言っとくけど、おまえ来なくなってからは前ほどキレねーぞ。ここ何日かは罰片付けとか喰らってるよ」

えっ、と思わず慎吾さんの顔を見た。
・・・・・・・泣きそうな顔しちゃったと思う。


「オマエなー」

すごく呆れた顔で溜息までつかれた・・・・・・・仕方ないじゃん。



「おまえさー、りおー。何で野球やってんの?準太の為か?」
「・・・・・・・違うっス」

始めはそうじゃなかったと思う、少なくとも。
今は・・・・・・・違うような、違くないような・・・・・・自分でもよく分からない。

ソノあからさまに信じてないって顔すんの止めて下さい・・・・・・落ち込む。


「いいか、りおー良く聞け。おれと和己は少なくともおまえがオレ達抜けた後の桐青の支えだと思ってる。2年の樺沢も実力はおまえとどっこいで悪くないよ。ただ腰壊してるのに今無理さしてこの後のヤツの野球人生を潰すわけにも行かない。桐青としては、ところどころで樺沢を活かしながら、おまえを主軸に準太と二人で桐青を引っ張っていって貰うのがベストだと思ってる」
「そこまで言って貰ってうれしっスけど・・・・・・・・・・・・でも、でもおれがいることで準さんが調子でないんじゃ、居ないほうがいいじゃないっスか!!」

 もうちょっとヤケ・・・・・・

「でも居なくなった今でも調子悪いぞ。戻ったところで一緒だろ」
「うっ・・・・・・・・さらに悪くなるかもじゃないかよ」

「よし分かった。じゃ、オマエが戻らないとして、だ。例えば樺沢が2試合までやって腰壊して出れませ〜ん、てなったら誰が準太の球受けんだよ?同じ1年の笹川か?悪いが今のままだと準太が手加減しないと捕球おっつかねーな。来年は戦わずして甲子園あきらめんのか?それでいいのか?」

「だって準さん、おれとのバッテリーじゃ、てんで・・・・・・・・てんでクソだったんスよ!無理っスよ!」

「あのなぁ・・・・・・・仲良しだから同じチームで野球してますって訳じゃないだろーが。仲悪くてもバッテリー組んでるヤツラだっていんだからな。要はお互いの仕事きっちりこなしてりゃ問題ねーんだよ!」


「そんなコト言ったって、自信ない・・・・・・・ス・・・・・」


「それぞれのポジションに対する気構えのモンダイ。りーおー、お互いに部の時だけなんだからガマンしろよ、我慢!どーせ1年ちょいの辛抱だしな」


 それを聞いておれは氷の入ったバケツをかぶせられたみたいにアタマが冷えた。
勢いで顔を上げた先で慎吾さんが、ダロ?って首をかしげて見せた。

 そうだ。どんなに苦しくてもあと1年も一緒に野球できるかどうか分からない。
来年になれば準さんは3年で当然受験があるし、秋季まで残るかどうかは分からない。

 ・・・・・・・・・・そしたら嫌でも今みたいに一日の大半一緒なんて無理、もう準さんの顔毎日見ることなんて当然出来ない。

 1週間もうだうだしてやっぱり諦めるとか全然出来ないし、これからも忘れられそうにない。
無理というより・・・・・・不可能。

 深刻に悩むおれに、慎吾さんがアタマをポンと軽くたたいた。

「まぁ、あと1,2日よく考えろよ。」




 慎吾さんがおれに投げたバクダンはすごい威力で、その日はとうとう一睡も出来なかった。

























16th Sep 2007
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今更ながら原作で島崎が「慎吾さん」と呼ばれてい事に気づきました!! ひいぇぇぇぇぇぇ〜っっ!ってな訳で1〜3も「島さん」と呼ばせていたのを「慎吾さん」に改定・・・・・・タハハ

                                             すすき