射程距離ゼロ地点 









「うるせぇよ!」

 でかい声に周り中が一斉に振り返った。
 目鼻立ちがはっきりとしたナカナカのオトコマエ、今季注目の2年生投手は周りを気にもかけない傲慢さでチームメイトに当たり散らす。
 少なくともオレにはそう見えた。
そいつが真っ直ぐにこちらへ向かって、鼻息も荒く歩いて来る。

「アキマル!」

 ものすごい形相でオレの後ろ方向にいる誰かを呼びつけた。
ズカズカと歩いて来るヤツの視界に他人は入っちゃいないから、怒りのオーラに皆が巻き込まれないよう道を譲る。

 もともとだろうキツい目付きに傍若無人な態度と鍛え上げられた体躯は同級生や下級生には脅威らしい。それもそうだよなぁ〜だって見るからに悪そうだしね。
 あ―あ、なんてボケっと眺めてたオレに思いっきりぶつかってきた。
 いや、単に興味があって、わざと避けなかったのかもね、と大分後になってから気がついたけれど。

「おっと!」

 大袈裟によろけて手をつく。
それに榛名がギッ、っとキツイ視線を送ってよこした。

ブツカッテキタ オマエガ ワルインジャネーノカ ?


「慎吾さん!」

 あ〜ヤバ、準太見てたのかよ!
ものすごい顔で榛名睨んでるよ…案外準太は生真面目だからなぁ。
和己は…居ねーな―…あ〜

「あんたウチの4番にナニしてくれんの?」

 う〜わ〜、面白い方に5千点のヤマちゃんまで出てきちゃったか!

「筋が…」

 なんて控え目に呟きながら腕を押さえちゃうオレもオレだけどね。
でも盗み見た先に、それを聞いてサッと顔色を変えた榛名がいる。何の前触れも無しに膝まずいたかと思ったらおもむろに手を取られて腕を真剣に検分しはじめる。
 それにはこっちがビックリしてしまう…だってなぁ・・・

「榛名ぁぁっっ!」

 オレの腕を真剣に検分していた榛名がビクッと一瞬びびった顔して、気まずそうにオレの後ろ上を恐々見上げる。

「ナニやってんだ!」
「…そんな事言ったって別にわざとじゃ・・・・・」
「謝ったのか?!」

 謝ってないに決まってる!とでも言いたげに決め付けた感じの声が榛名をしかりつけるって調子で聞いてくる。
 それに渋々といった具合に気まずそうにそっぽを向きながら謝罪の言葉を口に乗せるべくパクパクしている。
 どうやらオレが思ってたのとは立場が逆っぽいな。
こんな悪そうなのに負けないとはメガネ君もなかなかやるじゃないか。

「ス・ミ・マ・セ・ン、でした!」

 どう聞いても、すみません、とは思えない態度だ。
 衝動的に動いた準太を寸前でヤマちゃんが腕を掴んで止めた。
そういうトコは読めてんだよね〜・・・・というか、わざとかき回して面白がってるんだろうけど。読めてるだけに油断ならないんだな。

「・・・・・・・・・っつぅ・・・」

 もう一度腕を押さえたら、榛名がぐりんって具合に慌ててこっちを見た。
一応心配はしてるワケね〜
それにアキマルとかいうヤツもオレの隣で青い顔して膝をついた。

「本当にすみません。あの・・・医者行きますか?」
「や、ちょっとヒネっ」
「慎吾!」

 遠巻きに人垣ができはじめてマズイな〜そろそろなんとかしなきゃと思っていたら馴染んだ声に名前を呼ばれてオレは内心にんまりした。
 流石に和己は出番を心得てるね。

 心ニクイばかりにナイスタイミングで焦った顔で走り寄ってきたのに、ほんのちょっぴりの反省と何とか大騒ぎになりそうなこの場を納めてくれよ、と目線を送った。
 それを正確に、いや正確過ぎるくらいに読み取った和己が、アキマルとかいうメガネ君に自己紹介してる。

「桐青高校野球部主将の河合です。うちの部員が何か迷惑かけたみたいでスミマセン」
「や、うちの榛名が迷惑かけたんで、本当にすみません。その怪我を・・・」

 オレがそれに応えようとしたのをわざと遮って和己が相手の好意を押さえ込むように微笑んだ。
「いえ、彼は鍛えてるのできっと大丈夫です。後でちょっとマッサージすれば大丈夫だと思いますんで気にしないでください。」

 きっぱり堂々とした態度で相手のそれ以上の心配を断ち切るみたいに、オレを振り返ると、そうだよな、と確認してきた。
 ああ〜ヤベ、ちっょとイタズラが過ぎたかも…怪我なんてしてないってお見通しの和己の目が笑ってない。
 まだ心配顔の準太と、残念そうな顔のヤマちゃんにも念押しするみたいに頷いた和己にそれ以上はどうしようもなくて、オレも立ち上がると尻の埃をパンパンはたく。

 ぱっと何かの影が過ぎったのに顔を上げると真剣な顔した榛名と目が合う。

「アンタ、ちゃんと病院いけよな・・・・ぶつかって悪かったよ」

 ちょっと目線をそらして、それでも気まずそうに詫びる榛名はオレが思っていたよりもずっと真髄な気持ちで野球をやっているらしい。
 
「いや、こっちこそ。」


 そう言って握手しようと差し出した手に、訝しそうながらも榛名も手を差し出す。
コイツの感じからして男でも女でもイケそうだな、と踏んで握手したついでに親指で榛名の手の甲をするり、とヒト撫でした。
 一瞬ぎょっとして手を引きかけ、でも直ぐに気を取り直すとオレの目をしっかりと見て、榛名がニヤリと不敵にわらう。



 こうして些細な接触によりはじまったオレ達の恋の火蓋は静かに切って落とされたのだった。
 多分・・・・ね!















                             22nd Jun 2009
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これは昨年の利央準太オンリのオフ会(単なる飲み会)の席にてバカ話の中でイキオイで出たカプでしたが、私が非常に気にいってしまい、帰りのバスの中でひたすら打ったモノです。
 8割方できていたのですが最後が決まらずに此処まで引っ張ってしまいました。
 確か榛名受けだったら相手は〜とか話していた中からかな?慎吾オンリに出たいとか言ってて、コレしかない位のイキオイでした。笑)))
 某A部長と、M部長がこのカプにて参加するようですので、2人に捧げます)))
 あああ〜もう超参加したいのっっっ!!!
            慎吾大好き!!!!!

 この2人はいつもライバル的にお互いを意識していて余り甘くなくて良いかな、とか思います、オレ的には!笑
 そしていつもどこかに駆け引きがある、ちょっとヒネクレタ恋であって欲しい!!