悩める野球少年の恋愛力学   利央.3










準さんの足音が遠ざかってからしばらくぼぅーとして、どうしようかと何となくグラウンドの方へ向いた。



「!かっ、、和さんッッ!い、いつから、そこっ」



おれの声は見事にひっくり返って、和さんはなんか気まずそうにグラウンドで身体を慣らしてる準さんを見ている。

「お前ら予選前に喧嘩とか、すんなよ」


 割りと普通にぼそりと口にして鞄を肩にのせる。
 おれは開いた口が閉まらない態で、金魚みたく口をパクパクしてる・・・・・・こういう事ってホントにあるんだ。
そんなアホみたいなおれを手でどかして、一回背中をバシン!とたたいて部室へ入って行く。

 もうどうリアクションしていいのか解らない!その背中バシン!とかって何?! どういうイミ?!
一体いつからいたんだ?! 喧嘩って・・・・・・・話をドコから聞かれた?!ヤバイ!すげぇヤバイよ!!
準さんは普通にトラックを走ってるんだけど、あの人が出て行った時には至近距離にいたのか?! 準さんと相談したかったけどソンナ状況じゃないよ〜

「りおー、早く着替えろよ!」
「う、うぃっす・・・・」

と、とにかくどうしよう!

 おそるおそる部室に入って、ロッカーの前で着替えながら和さんの様子を窺う。
こんな事バレたら準さんには一生許してもらえない・・・・・・・と、待て待て。
今朝の話はおれが一方的に準さんに告った展開だったよ、・・・・な?ヨカッター!!!
核心はバレようはずも無い!よし!
・・・・・・でもおれが準さん好きなのはバレたのか・・・・・・・顔が熱くなってキタ・・・・ホントに聞かれたのかなぁ???
「喧嘩」とか言ってなかったっけ??? 聞かれてないのかなぁ・・・・
ああ、神様どうか聞かれてませんように!!









そんなこんなで又してもおれの前には山積みのボールがある。
ホント予選前にすげぇヤバくね?これじゃマジ、ベンチも危ねぇよ・・・・・・・ってかだんだんどうでもよくなってきた。

 準さんはマジで口もきいてくれない。



 はぁ〜っと溜息が漏れたのに、一緒にボール磨きしてたタケさんにどつかれた。

「お〜い、りおー。早く終わって帰るぞ」
「うぃ〜ス」

 この人がボール磨きとかすげぇ珍しい。真面目なだけにめったにミスったりしたところを見たことないんだけど、今日は珍しくカントクに怒鳴られてた。
 皆、予選を前に張り切ったり、イライラしたり、調整が大わらわなんだよな。


「おまえなー、手を動かせ!ぼんやりしてたら終わらないだろー」

 しょうがないなって顔してタケさんは一生懸命にボール磨いている。
それから唐突にボール磨きながら話しかけてきた。割りと大人しい人であんまりしゃべらないんだけどな。


「今日キャプテンが、すげぇ心配してたぞ。」
「!! か、和さんが?! ・・・・・・なんか言ってましたか?」

 やべぇ、すげぇ心臓バクバクする。

「や、別になんも聞いてはないんだけどさー。オマエ監督に怒鳴られてボール磨き言いつけられてる時に『大丈夫かなぁ』とかってつぶやきながらオマエ見てたんだよ。まぁオレの時もつぶやいてたかもだけどな!」



 あはは、と笑ってる。今のところなんも気づいた風じゃないって事は詳しくは聞いてないのかー・・・・・ほっとしたようなまだ安心できないような。

 でも安心するのはまだ早かった。


「オマエさー、最近元気ないよな?・・・・・・・・余計なお世話かもしんないけど、高瀬となんかあったか?」

「ないっ、ぜんぜん何もないっス!!」


 すげぇ焦って、急いで力イッパイ否定する。
これじゃ何かありましたと言ったも同然だって、言った後で気がついた。アホだ、おれ。
そんな焦りまくりのオレを、不思議な動物でもみるみたいに見てから困ったって風に笑う。


「いや、話を聞きたいとかじゃないんだ。・・・・何かあったのかもしんないけど、アイツも悪いやつじゃないからさ・・・・元気だせよ。オマエもさ、誰かに意図して傷つけたりするようなヤツじゃ無いって解ってるから。高瀬もそのうち機嫌直すよ!」


 おれはタケさんの言葉に不覚にも涙ぐんでしまった!

タケさんは組こそ違うけど、準さんと同じ憧れの2学年で、地味だけどコツコツとたゆまヌ努力で四番まで来た人だ。大人しくてめったにこんな風に自分の意見を言ったりしないンだけど、でも皆に信頼されている。

それが何でなのか今すごく解った!

 ああ〜、オレも準さんと一緒の学年だったら3年間丸々一緒にいられたのになぁ〜などと、1年遅く生まれてしまった自分の不運を呪った。

 ズビっと鼻を啜ってから、身体ごとタケさんにハグする。

「うわぁっっ」

 なんの予測もしてなかったタケさんが、抱えてたボール入りのバケツごと、おれもろとも後ろにひっくり返る。

「おまえっ、よせよ、キモチワリィだろ!」


 げらげら笑いながらタケさんが叫んだ。
 
 なんてことないその言葉にぎょっと身体が強張る。



 えっ?って顔するタケさんから、えへへと身体を離して誤魔化した。

「そう言えばこっちってハグしないんっスよね?つい、」
「あー、そっか!ブラジル育ちなんだもんな。…ごめん、慣れてなくて、さ。」
「や、いっス。こっちは女の子に遇ってもハグもキスも無いから寂しいっスよね」
「おー!それだけはいいよな!!お、男同士もすんの?キスとか??」

 おそるおそる聞いてくるのに、キスはしないっスよ!と返す。

「まぁ、ハグも男同士じゃめったにしないっスよね。家族くらい?すっげ親しいヤツとか」
「安心した。」



 雑談しながら散らばったボールを集めてもう一度バケツに戻すと、磨き始めた。
いい加減ちゃんとやらないと終わらない。

 でもおれのなかではタケさんが思わず口にした「キモチワリィ」って言葉がグルグルと渦を巻いていた。


 準さんは、キモチワリィ!って思ってるかもだ!!

それもハグじゃ済まない事までしたんだから!!!





 ホンキの本気ですげぇ落ち込んだ。



 二人でやっとボール磨きを終わらせて帰る途中でタケさんがラーメンを奢ってくれた。

「キモチ悪ィ、とか言ってゴメンな。ホントはハグとか嫌いじゃないと思う。まぁ女の子がしてくれるんだったらそっちのがいいけど」

 そんな風にタケさんはフォローしてくれた。
始めてゆっくりしゃべったけど、この人は絶対にイイヒトだ!!







 事件から1週間が過ぎても準さんは口をきいてくれなくて、甲子園の予選はますます近くなってきた。

もう此処まで来ると自分が何をどうしたいのかもわからない状態で、気がつくと準さんのことばっかり考えてる。
こんな状態で練習に身が入るはずもなく連日カントクの怒声にさらされて、正直練習出るのが辛くなってきた。
 準さんのことが気になって気になって、練習に身なんか入る訳ねぇ〜
 好きだったはずの野球をやっててもちっとも楽しくなんか無い。

 それでもやっぱり準さんの顔見れるのは部活しかなくて、行きたくないキモチでいっぱいなのに、身体が勝手に部室に向かってしまう。
 移動教室とかで、たまにすれ違ったりするんだけど、バッタリ鉢合わせるとそっけなく目を反らされるので、いたく傷つく。最近ではとにかく準さんに知られずに準さんを垣間見ルって事に集中してる。

 ああ〜、ナンカ情ケネェ〜



 流石に連日口をきかないおれ達に部の連中も、何カアッタラシイと気づいてる。

 こう、おれと準さんが側によると遠回りにこっちに注目してるのがわかるんだよなぁ〜
今のところ何かがあったとは思ってるけど、何があったのかは知られてない。
和さんもあの朝練の日からアレ以上は何も言ってこない。
 心配かけてるのはすっげく判るんだけど、おれじゃどうにも出来ないんだ。

 ごめんなさい。







 それなのに!

 今日の練習ときたら、地獄の底に落ちたおれを、更に穴を掘って埋めて、そこから絶対に出れないように身動きできないくらいの重石を乗せるくらいヒドイもんだった。


 カントクが和さんと夏大の打ち合わせで練習を抜けてる間、監督命令で準さんの投球練習の相手をやったんだ。
それ聞いたときは内心、やった!!!と思ったんだけど・・・・・・

 もちろんカントク命令により準さんはおれに投げる。サインも、多分その通りに投げてるんだと思うんだけど・・・・
今までの準さんの投球の出来の中でも、クソだったと思う。



 速度ものらないし、コントロールもめちゃめちゃ。
 サインは見てるけど・・・・・・サインしか見てない。


 カントクが居なくてマジで良かった。



 誰よりも早く朝練来て、誰よりも時間費やして練習してきた人が、信じられないくらいコンディション狂わせてる。

夏大まで後少しだってのに!


それで準さんの練習の一切合財を駄目にしたのはおれなんだという事実に、球を受けながら涙が出てきた。
このままじゃ、夏大に勝てっこない!! 初戦突破だって難しいだろう。

 もしもおれが居なくなったら、準さんの努力は報われるのだろうか?元にもどる?
かもしれない?

 このままじゃチームの全員に迷惑がかかると思ったら、情けなくて泣けてきた。





 おれはチームを辞めるべきかもれしない。



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04th Sep 2007