悩める野球少年の恋愛力学 利央.7
いつもだったら嬉しいはずの終業の鐘が放送スビ―カ―を通して無常にも学校中に響き渡る。
昨日の一件からおれは部活に出るべきか出ないべきか、まだ迷っていて、焦燥感とかなんかそんなんで学校には来たけれど心中はグズグスのドロドロにへばってる。
昨日の準さんの顔が瞼の裏から消えない。ひどく傷ついた顔が、焼き付いていて苦しくなる。
「おい、りおー!」
クラスの奴の声に振り帰れば目線の先、教室のうしろの出口に慎吾さんが、よ、って手を挙げてる。
「オマエこれ以上さぼるとベンチも危ねぇぞ。」
ニコニコって…大体の理由はわかってるクセに…
楽しんでるのかな?
先輩が来ているのにムシするわけにもいかずに、おれはしぶしぶと言った具合に扉まで歩いて行った。
「支度しろって」
「え?迎えにきてくれたんスか?」
「そ。オマエ朝練サボるし。今も行こうか、サボろうか考えてたろ?」
「…何で慎吾さんは其処までしてくれるんスか?」
「ん―、まぁオレも色々責任感じてるしな―。オマエその手…」
「コレは何でもないス…責任って?」
「打ち上げの次の日からダロ?オマエらおかしいのは」
「…おれが全部悪いんス」
どんないい訳も出来ない。さらに事態を悪くしたのはおれ自身だ。
下を向くおれに、ハァ―と慎吾さんが溜め息を吐く。
「そんな顔すんなって!」
頭をぐしゃぐしゃやられる。
「ちょっと来い」
おれの右手を引っ張って返事も聞かずに歩き出す。
「ちょっ、慎吾さ、どこ行くんスか」
「保健室。そのまんまじゃ触ると痛いダロ?」
「だ、大丈夫っス、たいしたこと」
「あるんだよ」
そのままズルズルとひきづられて行く。
身長じゃおれのが勝ってるのに力じゃ負けてる。
無理矢理ひきづられて連れて行かれた先の保健室に先生は居なかった。
慎吾さんは慣れた様子でズカズカ入って行くと、おれを椅子に座らせる。
「手出せ」
上着を脱いで腕までシャツをまくりあげた慎吾さんが流しで丁寧に手を洗って薬の瓶を手に戻って来た。
「だ、大丈夫なんスか?」
不信感も顕なおれの問いかけに自信満々に答える。
「まかせろ。此処はおれのテリトリーだ。」
引っ張られた右手の拳を見て、無茶すんな、とたしなめられるのに、転んだんです、等と言う芸のない言葉しか持っていない。
黙ったままおれの上着とシャツを薬が付かないようにめくりながら再度溜め息を吐く。
「んじゃあ、そう言う事にしといてやる。」
慎吾さんはピンセットで脱脂綿に薬をつけると、少し滲みるぞ、と前置きして赤く腫れて擦り傷になっている箇所にソロリと置いた。
「ってぇー!」
思わず引こうとした手を慎吾さんがしっかりと掴んでいて笑っている。
「な、そう言ったろ?」
「ひでぇよ!」
「ん〜心配ばっかさせてる罰だな」
そう言われてしまってはただ謝るより他はない。心配もご迷惑もおかけしてスンマセン。
「…スンマ、セン。」
「わかりゃイイ」
薬が染みたのは最初だけで、必死になってふーふー吹いてたらすぐに落ち着いた。
それを笑いながら見てた(このヒト絶対楽しんでるよっっ)慎吾さんが、その上からガーゼで覆って包帯を巻きはじめた。
「ちょっ、慎吾さんコレ大げさ!」
「場所が場所で絆創膏だけじゃすぐに剥がれちまうだろ」
「でも、」
「準太が気にする?」
「うぅ…」
キライだ・・・・・・
「そうそう2年の樺沢な、完全に今シーズン駄目だってよ。ドクターストップ。今朝監督に話してたから、しばらく休部だな、ありゃ」
「そんな!」
「そんなってオマエのベンチ安泰になって喜ぶトコじゃねーの?」
「おれはヒトの不幸喜んだりしません。」
「じゃあ、せっかく逃げたそうと思ってたのに?」
「うぅぅ〜」
やっぱり楽しんでるとしか思えない!!
「おめでとう!もう逃げられません!」
「…慎吾さんは一体どーしたいんスか?!」
「後輩を可愛がってるんだよ。ヨシッ、荷物持って部活行くぞ」
「って、ええぇ―!!虐めてるの間違いだろ―!」
「ナマイキな口だな、色々バラされたいのか?」
「ええぇ!」
アンタは何知ってるのっっ?!
結局おれは慎吾さんのいいように遊ばれてるだけかも…うう、行きたくない。
準さんに「この前みたいのは絶対にしないから」って言ったのも嘘になってしまった。
オレはトンデモナイ大嘘つきで、夏体前に部を引っ掻きまわしてる大馬鹿モノだ。
…2回目とかさすがにアリエナイと思ってる。
謝ったところで嘘くさくなりそうだし、いや悪いと思ってるなんて通り越してて…とにかく何をどう言っていいかも解らなくて…
顔も見れない、というか見せる顔もナイ。
目を離したら、絶対にサボると思ってんのか慎吾さんは教室まで付いて来て、そのまま荷物をまとめさせられ、部にひきづられて行った。
幸いごった返すロッカーに準さんはいなくて少しほっとした。
その後は和さんに、2年の樺沢さんがドクターストップで休部の話をされて、これからはオマエしか居ないんだから練習倍だぞ!と告げられた。
今朝のサボりの理由は慎吾さんが、手を怪我して病院に行ってたんだと監督と和さんにスラスラと嘘を吐いてくれて、何の打ち合わせもしていないおれは正直焦った。
まさか「それはウソです」等と言える訳もないので、目を白黒させながらも慎吾さんの気づかい?はありがたく受け取った。
だいたいにしてホントの事は慎吾さんにだって言えない。
ベンチを出て基礎トレしてる1年に混ざるべくグラウンドを横切る時に、準さんがマウンドで和さんと話してるのが見えたけど、とても顔を見れなくておれは避けるようにして1年の群れの中に潜り込んだ。
準さんが好きでたまらない。
だけどその大好きな準さんを傷つけたおれは多分どうしようもない大馬鹿だ。
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17 Feb 2008
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ウダウダしててすみません。今回は準さんはお休みでかわりに慎吾が出張ってます。
慎吾大好きですよ。うふふふ
慎吾が出るのは半ば趣味のような感じになってきましたね。カカサスで言うところのアスマな位置です、自分的には。
今回ものっそい中途半端で盛り上がりに欠けるあたりで、待っていて下さった方には大変申し訳ゴザイマセン!! 利央的にインターバル?