サンタはいらない : 後編









 中等部のキャンドルを持った生徒達と、にわか聖歌隊となった高等部生との最後の合同あわせ練習日。
リハーサルは金曜の午後いっぱいを当てて練習が進む。
高等部の広めの講堂に、緊張の面持ちの中等部生の持つキャンドルの光がきらきらと光を反射している。


All the lights are shining  
So brightly everywhere



 今日で練習から開放され後は休み明けの本番を残すのみで、授業も終わり、冬休みも近いとなれば自然浮かれた雰囲気にもなる。
 解散の掛け声と共にそれぞれの教室へと散っていくその中に、ひときわ背の高い仲沢利央を見つけた野球部イチの俊足、真柴迅が追いつく。
 利央はそわそわと相変わらず目で1学年上の高瀬準太を探している様子だ。
誰の目にも明らかなこのなつきようは本人は周りに知られてないと思ってるから不思議だよな、と可笑しくなる。
 誰が見たって゛好き、好き、大好き!!゛っていうのが、だだ漏れだ。


And the sound of children’s
Laughter fills the air



 後から背中を叩くと、最近よくフンフンやっている鼻歌がピタッとやんで勢いつけて振り返った。
 その振り返った顔に、おれで悪かったな、と苦笑まじりで迅は内心呟く。
あからさまながっかり具合が笑えると同時に何故か気の毒にすら思える。



 顔はがっかりしたが、おーっと短く返して利央は自分よりもだいぶ背の低い迅に歩調をあわせた。
 いい加減なところも儘あるが、準さんに鍛えられているせいなのか人に対する気遣いだけはいつも驚かせられる。
が、いやいや待てよ、準さん探すいい訳かもしれないな、と迅は思い直す。

 中等部が丸っと来て、高等部に比べれば人数は少ないとはいえいつもの1.5倍は人がいる。この中から一人を探そうだなんて何か目印でもなければ無理だ。
 でも利央は゛諦める゛って言葉すら知らないみたいにキョロキョロしているのだから。



「おい利央、クリスマスなんかすんの?」
「・・・・・・・・・・部が休みな訳ないってわかってて聞いてんの、迅?」
「や、オマエん家なんかやるのかな〜って?」
「う〜ん、父ちゃん達は今年は日本にいるみたいだしね」

「いつもどっか行くの?」
「どっちかのパァちゃんトコ。休暇取れないみたいだし、おれも兄ちゃんも部があるしなー」
「いつもは何かするんだ?」
「う〜ん、クリスマスディナーでプディング食べたり・・・・・・ってもプリンじゃなくてフルーツケーキみたいなヤツね。後はカードをいっぱいやり取りする」
「へ〜そうなんだ」
「うん、カードは日本に居ても毎年親しい人たちとやりとりするけどね。今年もいっぱい来てるよ」


 どうでもいいような様子でたんたんと応えながらも、目だけは忙しなく高瀬準太を探す。
 講堂での全高生徒そろっての練習は、部以外では移動教室ですれ違うくらいしか接点のない他の学年と一緒の、利央にとっては非常にありがたい行事だ。


I don’t want a lot for Christmas
There is just one thing I need I don’t care about presents



 こんな風にでも準さんを眺めることが出来るなら、年に数回のミサで授業日数が取られる分休みが削られるのもありがたい以外の何モノでもない、行事バンザイ!と利央はココロの中で毎回バンザイ三唱している。
学校に来る、イコール準さんに会える・・・・・・・・・ケナゲだ、我ながら泣けてくる、と最近自分が少し可哀想だが。


「そういうの聞くと外国ってカンジするなー」
「そうか?」
「うん、日本みたく商業っぽくないっていうの?」
「いやいや、カード屋は儲かるし、クリスマスセールとか大々的だから」


 利央がミサに文句を言うどころか嬉々としているのに、周りはクリスチャンだからだと思ってるらしいけど、トンデモナイ。
この際ミサはどうでも良くて、準さんに会えるから嬉しいだなんて、オシャカサマでも知らないだろう。
バァちゃんも神様もごめんなさい、他の時に祈っとくから許して欲しい。別に忘れてる訳じゃないよ。
イロイロ心の中で言い訳をする。

「そっか、どこも同じか。りおーは何が欲しいの?オレはちなみにアイポッドです」
「おれに言っても無駄だから、迅。・・・・・・・おれはちなみにナイショですっ、と、準さんっっ!じゅ〜ん〜さ〜んっっ!慎吾さ〜んっ!」



 やる気のない声が一転して、いきなり叫び出したぶんぶん手を振る向こうに目当ての人影がいる。
この9ヶ月ばかりで利央の゛準さんセンサー゛は確実に精度を増しているみたいだな、と迅は感心した。

 慎吾さんと何やら楽しそうに話しているのに駆け寄っていく後姿からも嬉しさが伝わってくる。
 身長が近い2人はちゃっかり隣同士で歌っていて、練習が終わった後もふざけながら歩いている。
 このまま各自の教室に戻ってホームルームで解散とあって、誰も彼もがのんびりと散っていくのを掻き分け掻き分け利央が進む。
 慎吾が意味深にニヤニヤしているのに怯むが、準さんの側に!という気持ちが勝ったらしかった。


「あっ、うるさいヤツが来た」
「ひどいっスよ、慎吾さん!なんスか、うるさいってっ!!」
「そーいうところが。」
「おー、迅!コイツのお守りも大変だろう」


 間髪いれない準太の言葉に内心ちょっと傷つく。
ちぇって思うけど、会えたからいいや、都合の悪いコトバとかそんなのは全部帳消しと、利央はにこにこしてしまう。


Couse I just want you here tonight
Holding on to me so tight



「準さんクリスマスどうするの?」
「おっまえ、部に決まってんだろ〜」
「あ、やっぱし?」

 さっき迅が利央に聞いたそのままの質問を準太にしているが、この場合の意味合いはどう考えても、゛彼女チェック゛だろう。
にへっ、と笑った利央が誤魔化しついでに慎吾にも質問する。
 

「慎吾さんはどうするんですか?」
「どうするも何も勉強するしかないダローが」
「正念場ですもんね」
「おまえ、さらっとプレッシャーかけるね?迅」
「あ、や、そんなつもりじゃないっス!」
 
 どうも迅にとって慎吾は未だに緊張する存在なのだ。利央のずーずーしさと甘ったれた性格をいつもうらやましく思う。
あんな風には到底できない。


「おい利央、特別にクリスマスプレゼントやるよ。この後直ぐに準太と2人で部室行け!」
「えーマジ?! 何くれるんスか!」
「ええーズルイ!ってかなんでオレが付き合わなくちゃなんスか!」
「行きゃワカル。」
「も、準さん、行こう!早く、早く!!」


 準太がメンドクセーと言わんばかりの抗議の声を上げるのに、有無を言わせないように利央が準太の手を引っ張っていく。
とにかく、行きたくない、寒い、とか言われる前に!と駆け足だ。
 それを見ていた慎吾が迅の隣でゲタゲタ笑っている。
 なんだか二人だけトクベツでいいなー、というのが顔に出ていたらしい。慎吾が笑うのをやめて迅の頭を軽くたたく。


「部室に行っても何にもないから」
「え!? 騙したんですか?」

 ちょっと非難っぽくなったのは、流石にここ最近の利央の準さん中毒具合を知っているからだ。


「んー、ちょっと違うけどな。」
「??」
「オマエも何か欲しい?」
「え?! だって二人とも何もないんですよね??」


 それにクスリ、と意味深に笑って優しい顔をされる。
こういう顔をされるとドキドキと落ち着かなくて迅はどうにも逃げ出したくなる。
自分が意識しすぎているのは自覚しているのだけれど。



「ハイ。おまえソックリだったからさ」


 握った手を突き出されたから反射的に迅が手を出す。
するとゆっくりと広げられた掌から何かがポトリと落ちてきた。

 ん?と手の中を見た迅のアタマを再び軽く掻き混ぜるようにして、慎吾がじゃ、と片手を上げて階段を上がって行く。
その上げた手に握られた携帯のストラップを見て頬が熱くなった。

 慎吾の携帯についているストラップと同じ鈴を付けたトナカイが手の上でちょこん、とこちらを可愛く見上げている。



I won’t even stay awake to hear those magic reindeer click











  

 部室は校舎の外れグランドに面しているだけあって、中の空気は一段と冷えている。
ブーブー文句をたれる準太を説き伏せて同行してもらったのに、中はいつもどおりでプレゼントらしきものは一個も見当たらない。
 念の為それぞれのロッカーを開けてみたが何も入ってはいなかった。





「何だよ〜っっ、何にもないじゃん!! 慎吾さんのバカーっっ!」
「・・・・・・・・」
 随分探したのに結局見つからなくて利央が文句をたれる。




 慎吾さんには「知らない」と答えたはずなのに。

どうして慎吾さんはこう何でもカンでも見透かしてしまうのだろう。
準太は1人恥ずかしいのを誤魔化したくて(誰に対してなのか自分でもわからないが)ついつい顔が不機嫌になる。
それを利央が見逃す訳もなく、利央の周りの空気がシュンとするのが解ってしまう。



What more can I do



 準太のここ最近の逡巡を、めったに合わない慎吾が気づいているなんて考えにくいとは思うのだけれど。
言葉どおりに利央へのプレゼントだったのか?
 でも引っ張られるようにここへ連れて来られる寸前に、随分意味ありげな目線を送ってよこしたのは自分の考えすぎなのだろうか。




「準さん、ごめん、寒いし教室戻ろう。エースが風邪、」

 途中までしゃべっていた利央の左手を自分の方へと強く引いた。
途惑いながらもなされるがままに引っ張られた腕ごと利央の顔が近づいて来る。
薄い色の大きな瞳がモノ問いたげに見開かれて、それに耐えかねて準太は目を瞑った。





Santa won’t you bring me the one
I really need - won’t you bring my baby to me ...








「・・・・・・・まっ!・・・・じゅ、じゅんさんっ?! 」
「・・・・・」


殴られる!と思って咄嗟に目を瞑った利央の胸倉を準太が掴んだ、と思った次の瞬間には、くちびるにやらかくて温かいしっとりした感触が掠めるようにして触れていった。



 不意打ちに全部の機能停止
言葉すら出ない利央に、ちっと舌打(!)してくるりと踵を返してしまう。





Make my wish come true




「行くぞ」


 その後姿から漂う不機嫌のオーラみたいなものとは裏腹に、つんつんの真っ黒な髪の間からのぞく耳が、寒さの為でなく真っ赤なのを仲沢利央はシンジラレナイ面持ちで眺めるしかない。
 呆然とする間にも準太は後を振り返りもせず逃げるようにスタスタと歩いていってしまう。



Baby all I want for Christmas is you !


「準さん、まっ、待ってーっっっ!!!」






                           ← 前編




















                                           28th Jun 2008
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
やっと後編です、って1月も終わりですよ!!今年もまたまたギリギリな予感ですね・・・・
少々準太利央っぽいですが、一応リオジュンで、慎吾×迅がちょびっと入っております。
慎吾ってホント扱いやすくてオールマイティです!
誰とカプッてもおよそ違和感ない人だなぁ〜と私は思っているのですけれど?笑

「悩める野球少年」の続きはイベント終わったらゆっくり書かせてくださいね。お待たせしていてイロイロ申し訳アリマセン・・・・
さてこれからまた原稿入ります・・・・あわわわわ