秋丸の誤解も解け手当てもしてもらって、レンの涙も止まったのを見計らってキャチボールに誘う。
その頃には他のヤツ等も出てきてレンを見て不思議そうな顔をするのに、見学だからと押し切った。

 秋丸がナンカ言いたそうだけど、さっき怪我させたという負い目があるのか視線だけにとどめてる。
シシシ、怪我してヨカッタかも。
大したこと無いしな〜♪

 「おいレーン、離れすぎんなよ!先ずは軽く慣らしからなー」
 「う・・・・・は、い!」

 お互いの肩を温めるのに軽く投げる。
 午前中とは言えもう太陽も高く上がっていて、日に照らされるグラウンドは今日も暑くなることを予想するかのように陽炎が立つ。
この時期に雨が降らないのはありがたいが、湿度が半端ない。
 気をつけて水分取りながら行かないとバテるな。

 軽いモーションで体の関節をゆっくりとほぐすように動かす。
 大したことない怪我だけど、さすがにちょっと皮膚が引っ張られて痛い。
レンが心配そうに見ているので、痛いとか普段だったら騒ぐところだが、極力判らないように普通にする。
 また泣かれたんじゃタマラナイ。


 でもボール握ってからのレンの顔が生き生きしいてくるのに驚いた。
キョドって周りの人間に脅えてるみたいだったのが、1球ごとに薄くなっていく。

 しばらくグローブが球をキャッチする音だけが周りの喧騒に混じって響く。
ただのキャッチボールだけれど、1球1球楽しいんだろうなと、レンの口よりもよくしゃべる瞳に見入った。

 コイツはきっとすごく野球が好きなんだ。
たったそれだけの事だけれど、オレの中のコイツの株は何故か急上昇。
 まぁよくいる野球馬鹿ってヤツかな〜オレも大概そうなんだけど。

 ちょっとからかってやろうとしたら、ヒャリリン!と携帯の音がした。
予期してなかったから驚いた。レンなんか文字通り飛び上がってるよ、おもしれーヤツ!
なんか動きが小動物系っての?独特で面白い。

 誰のだと思ったら、レンが尻のポケットを探っている。



 「あっ・・・・・う・・」
 「なんだよ、オマエかよ!」

 オレの言葉にびくっと体を強張らせてコチラをうかがい見る。センセじゃねーんだから怒らねーよ!

 「怒んねって!出ろよ」
その間しつこいコールは切れる事もない。レンがオレの言葉に少しは安心したのかあたふたと携帯を操作する。
なんとなくキャッチボールの邪魔されたのがオレとしては面白くない。
いくら何でも大人げなさ過ぎるから顔には出さねーけど。


 「・・も、もしも、し、」
 『オマエっ!!今何処にいんだ!! 練習とっくに始まってるぞ!』

 怒声が少し離れたオレにまで聞こえてくる。
そのデカイ声に一旦携帯を耳から離したレンガ見る間に青くなった。
 声の調子から直ぐに誰だか判ったけれど、どうしてアイツはああ怒りっぽいかね?
 カルシウム足りないんじゃね??


 「あ、う、い今、あっ!!」
 「うっせーよタカヤ!怒鳴るんじゃねーよ!」

 レンから勝手に携帯を奪い取ると、それを取り返そうと手を伸ばすレンの頭を手で押しやった。
力のないレンは簡単にあっち側でおたおたしてる。
オマエのリーチじゃオレに届かねっての。


 『!・・・・・・なんでアンタが一緒なんだよ?!』
 「途中本屋でレンに会ったから、練習誘ったんだよ。こっちで練習してっから心配すんな」
 『なっ!ざっけんなよっ!! こっちにゃこっちの練習(メニュー)があんだ!』
 「あっ、オマエが気にすると思って探り入れたりとかはしてねーから」
 『そういうモンダイじゃねーよ!』
 「後でレン怒ったりとかすんなよ?」
 『おまっ、』

 「じゃーな、タカヤ!」
 『あっ、お』


 とりあえず伝えるべき事は伝えたので、ブチっといった。
 これ以上しゃべってもアイツはうるさいだけだからな、細かすぎんだよ。
携帯の向こうで悔しがってるのかと思うとちょっといい気分だ、ザマミロ。
態度がデケーんだよ。
っとレン見たら青い顔で本格的にまた涙がうるうると湧いて来ていて、オレがびびる。


 「っま、泣くなって!ちゃんとタカヤには言っといたから!なっ?」
 「うっ、はる、な、さ・・・・・・阿部・・ん、怒って、」
 「ダイジョーブ、ダイジョーブ、タカヤのやつ怒ってんじゃなくて心配だったんだろ?」

 涙を拭うのに頭を撫でてやる。
見た目どおり猫っ毛で柔らかな手触りにやっぱり秋丸の家のハムスターを思い出した。

 「時間勿体無いからキャッチやろうぜ、な?レン?」
 「う、は・・・・・・」
 

 ぎゅっと涙を拭いた。
 なんかコイツよっぽと大事に育てられたのかなー?こんな感情全開って高校生にもなれば普通あんまりないよな?
その割にはビクビクと周りを警戒すんだけど・・・???相当な箱入り息子ってコトか?!



 「またタカヤが何か言ってきたらちゃんとオレが言ってやるから、さ?」
 そうだ、アイツはしつこいから又かけてきそうだ。だいたいにしてだなー

 「オマエ何でロッカーに携帯置いてこねんだよ。転んで壊しそうだからオレが預かっててやるよ。そんでタカヤの電話は出てやるから」
 「あ・・・・・う・・・」

 迷ってるって風なんだけど、あんな怒鳴りちらすタカヤの相手はコイツにはどーしたって無理だろ。
ロッカーに置いとけば、出ずに済んだのになー

 「まかせとけって!」
 言ってやりたい事もあるしな、うん。
レンの返事を待たずにユニフォームの尻ポケットに突っ込んだ。


 「やっべ、レン!秋丸来たから涙拭け!!また怒られる!」
 「うっ、わ、は、はい」




 焦って涙を止めても目も鼻も赤い。ヤベ〜!!!
うーわー胡乱(うろん)な目つきでずかずか歩いてくるよ〜やべ〜!!

 「榛名っ」
 秋丸の目が据わってるよ〜

 「おっ、オレ違うから!!なっ、レン!」
 レンが急いでコクコクと頷く。

 「泣かしてたんじゃないの?三橋君も正直に言っていいんだよ?コイツになんかされたんじゃないの?」
 「なんかされたって・・・オマエ・・・」

 「ちっ、ちが、い、マス」
 秋丸の怒気にびびるな、レン!!そいつはオレに怒ってるんであって、お前に怒ってるんじゃない!負けるな!

 「じゃ、何で泣いてるの?」
 コイツの中のオレ像って一体どうなってるんだよー!!

 「で、電話、で、」
 「そうなんだよ、タカヤのヤツがコイツに怒鳴るからさー」

 「何で怒鳴るんだよ?」
 「オ、オレといたのが気に入らなかったみてー!ほら、アイツ怒りっぽいからさ!な?」

 これまたレンが少々不本意そうだが、なっ、というオレの駄目押しに、こくこくと頷く。
 随分はしょったけど嘘じゃないしな。 

 「ふーん。」

 秋丸が信じてなさそうながらも、レンがそういうんだから仕方ないかって顔してる。
どうして捕手っていうのは細かくてウルサイやつが多いんだ。



 「もしも榛名に何か言われたりとかされたりしたら、俺に言ってね、レンくん」
 「まっ、オレはそんな弱いものイジメとかしねーっての!!」
 「オマエは自覚なさ過ぎなんだよ!夏体前に揉め事とか起こすなよっっ!オレ3年に一任されてるんだからな!」
 「うー、へいへーいっ」

 オレはそんなつもり無くても周りが勝手に誤解するんだっつーの!! オレが悪い訳じゃねー!

 「くっそ秋丸め。でもま、コレで練習できるな!」

 ニシシ、とレンを見たら、目を瞠って大きく首を振って頷いた。
その涙に濡れた、睫の長い、デカイ目玉がなんだかホントに可愛いくて、被ってた帽子を取ってレンにぐっと深く被せてやった。

 「わっ、は、るな、さん!」

 急に視界が妨げられて驚いた声を上げる。

 「そのまま帽子かぶってろよ。日差しも強いからあったほうがいいだろ?」
 「は、はるなさん、は?」
 「んー、特にいらねぇ」


 そのまま距離をとって球を構えた。
アイツの目玉って吸い込まれそうでやべぇよ・・・・・なんかヘンだ。

 投げる素振りをすると、それに応えてレンがグローブを構えた。

 や、レンの目玉がヘンなんじゃなくてオレがヘンだ。

 徐々に距離を広げてキャチボールを繰り返す。
規則正しいボールをキャッチする音を聞きながら考える。
コレはなんなんだろうかって。

 それにしても、コイツの球ってオレが構えたとこへスンナリ来んなぁ〜
 それに引きかえオレの放った球の何割かは、レンのグロープなんてお構い無しに好き勝手な方へ行く。
まぁオレの相手するヤツはだいたいこんな目に遭うんだけど・・・・・・投球に性格が出ていると行ったのは秋丸だったか。

 同じ投手として、ちょっと流石にカッコ悪ぃ。
レンはイジワルして位置をずらして構えても、狙いピッタリに投げてくる。
なんかちょっと嫉妬するくらいコントロールいいみたいだ。

 「レン、コントロールいいなー!」

 オレが驚いた顔するのに、嬉しそうだ。




 今日は3年がいないから、レギュラーが揃わなくて守備の繋ぎ練習なんて出来ないから、どうしたってバッティングとかになるんだが、投球マシーンも飽きたし、ちょっとレンにコントロールはともかく少しはマシなとこ見せないとだ。
 全員が三々五々慣らしを済ませたのを見計らってバッティング練習になるのに秋丸に声を掛けた。

 「投げたいから投げさせろ。」
 「あ〜も〜、ハイハイ。いつもは面倒くせぇって嫌がるクセに」

 ブツブツと文句を言うのも、まぁ当然か。いつもはやれって言っても中々ヤラねぇから。
レンがじっとオレを見てる。

 マウンドに立つと、バッターボックスに同学年のヤツが入った。


 「榛名〜、当てンなよ〜!」
 「ちゃんとストライク頼むぞー!」
 「ばぁーか、何がいくか分かったら練習なんねーだろ!」


 今日はめずらしく、真面目に投げてやるよ。
いつも通りのモーションから秋丸のミットめがけて球をほうった。
いい音と共に白球がミットに吸い込まれた。

 オレのコントロールにしちゃ今日は奇跡かっつーくらいいいトコ決まった。
バッターが追いきれずに空ぶる。
かぁーっ、いいね!!
にやりと笑ったオレにバッターが地面に軽くバットを叩き付ける。
 
 「もういっちょ来ーいっっ」
 
 今日は機嫌がいいせいか投球の出来も悪くない。
見学者がいるから張り切ってんのかな、オレ?
 デッドボールの可能性が低いと思ったのか他の奴等は、次の打順はオレだ、オレだ、と大騒ぎしている。
調子悪いときの暴投っぷりで結構ひでー目にあわせる時あるからな・・・


 なんやかんやで、みっちり6人相手して疲れた。
どいつもこいつも、もう1球、頼む!とか言いやがって。
レンはかぶりつくみたいに見ていて、その顔が必死で笑える。
 
 「秋丸〜、ちょい休憩なー」
 「うーん、分かった」



 オレはレンの感想が聞いてみたくて、見ている場所へと歩いていった。
 
 「よー、どうだったよ、オレの投球は?」

 汗がこめかみを伝って流れる。
それを腕で拭った。
野球帽で見えないが、気のせいかレンの唇が震えてる。



 「ス、スゴ、かった、よ」

 いつものかと思ったけど、声の調子に深く被ってるレンの野球帽を押し上げた。
その瞬間に目をそらしたレンの腕が、オレの手を拒絶するように必死に避ける。
 何がどうしてそうなってんのか分からない。

 「レ、」

 「ミ、ハ、シーっっっっ!!!」


 オレの声に被さるように怒気の漲る声がグラウンド中に響き渡った。
 はっとグラウンドの入り口を振り返れば、真っ赤な顔に息を切らせたタカヤがユニフォーム姿のまま仁王立ちしている。
こんな時に、と舌打が漏れた。
 レンも涙ぐんでた顔を上げて、一瞬ぽかんとして、それから逃げ場所を探してわたわたし始めたのを首根っこを掴んで背中に庇うように立った。
 その間にズカズカと厚かましくも他校のグラウンドに乗り込んできた、怒り心頭に発したって風なタカヤと相対する。
 ゛鬼のような形相゛っていうのはこういうのを言うんだな。


 「よー、よくうちのガッコ分かったな、タカヤ」
 「・・・・すぐ判りますよ、バス乗りゃ、直ぐだし。ミハシ、帰るぞ!」
 「おっ前、過保護だなー。レンだって大人なんだから一人で帰れるだろ」
 「!オレ等の練習引っ掻きまわす気かよ!! 夏体前に遊んでるヒマはねーんだ!」

オレの後のレンを引っ張ってくつもりで、後に回ろうとするのをさせない。
手を広げればオレのがデカイからそうそう簡単には抜けないだろ?ニシシ。

 「落ち着けってタカヤ、何でそんな怒ってんだよ」
 「〜っっっっ」

 あっやべ、本気で頭来たみたいだな。

 「ミハシっっ!」
 デカイ声で名前呼ばれたレンが、びくっ!と体を強張らせた。

 「おまっ、レンに当たんなよっっ!」
 「当たってねーよ!」
 「だったら、怒鳴んなよっ!レンがびびってんの分かんだろっ」



 睨み合う視線に火花が散りそうなほどだ。
レンが益々脅えてんのも分かってるんだけど、こうなってくると後に引けない。
そこへ今まで何が起こってるのか分からなかった秋丸とチームのヤツラが慌てて割って入ってきた。

 「ちょっ、榛名も落ち着けって!えと、タカヤ君だよね。レン君をどうやら榛名が引っ張って来ちゃったみたいなんだ。悪かったよ」
 「謝る必要なんかねーぞ、秋丸!」
 「・・・・・・・・」
 「黙っててよ、榛名は」

 秋丸は有無を言わせない低くドスの効いた声を出してくる。
それに他のヤツラが4人もオレにぶら下がりやがって!!
別に殴り合いの喧嘩したりなんかしねーよっっ!!


 「つーかホントうちの榛名が悪いからさ、レン君に怒らないであげてよ。そうしないとオレらも何かすごく気まづいから、さ」
 「・・・・わかってマス。ミハシ、帰んぞ!」
 
 ぐっと何かを飲み込んだみたいなタカヤが、逆らう訳なんかない、という傲慢さでレンを呼ぶ。
 それにレンが釣られたみたいに小走りに行こうとするのを、オレは反射的に手を伸ばした。
そしたらスッと体を捻ってオレの手をかわして、目線も合わせずにタカヤの後についていったんだ!




 「っだよ!チクショー!! 」

 地面を蹴るオレの言葉にレンの肩がビクッと跳ねて、でもそのままレンの姿はどんどん小さくなって行ってしまった。








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                                          12th Jan 2008
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キリのいいとこ〜と思うと長くなっちゃうのですよね。
世の中のほんの一握りのハルミハさんに楽しんでいただけら!と願っております。笑)))
全国に何人いるのでしょうか??
原作的にしばらく遭遇する事はなさそうですねぇ〜残念!!
                                                すすき




トウシュ
〜トウシュのジジョウ〜